新 行政不服審査法等の概要(新 行政書士法施行の日に)

新 行政不服審査法等の概要(新 行政書士法施行の日に)                                     
行政に関する法規は、組織法(内閣法、地方自治法等)と作用法(生活保護法、警察法等)と救済法(行政不服審査法、行政事件訴訟法等)に分けられる。なお、「行政法」なる名称の通則的法律はない。
ここでは、不利益を受けた場合の国民の救済法であり、昭和37年制定以来、約50年ぶりに全部改正された行政不服審査法の梗概を主とした。
さて、行政司法法規といえば、遠くは、江戸幕府の基本法典として、今も語り継がれる大岡忠相越前の守も関わったとされる公事方御定書(基本法令+刑事法令)があった。当時の法は、近代法以前のもので、原則、秘法であり、奉行等が知るのみで、公開はむろんのこと、民に知る権利なく、知らされることもなかった。公事訴訟の実態では、大岡裁きの頃は、義理の筋に重きが置かれたが、その約100年後には、訴訟数も増え、人の道の理よりは、損益と利得のことだけが争われる世相になったと伝えられる。
さて、先ごろ成立した新 行政不服審査法は、更なる民主主義の成熟を表徴するが如きものであった。ではあるが、当事者同士が平等の関係を基礎とする民事(訴訟では、裁判官のもと)と異なり、行政機関は、公益の実現を目指すがゆえに、国民から優越的な地位にある。
平成20年4月、福田内閣で、改正法案提出、同23年12月、野田内閣で、取りまとめられ、この平成26年6月、第二次安倍内閣で半世紀を超えての全部改正が実現した。国権の最高機関である国会に対し、深く敬意を表するものである。
さて、日本国憲法上、司法(非政治的権力)において、特別裁判所(旧軍法会議等)は設置できないことと、行政機関は終審として、裁判を行うことが出来ない旨が明記されている。が、終審でない前審としての裁判は可能と裁判所法は定める。すでに、海難審判(国土交通省・海難審判所)等がある。
憲法上、国会では、両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判するとあり、また、両議院の議員で組織する裁判官の弾劾裁判所を設けることも、明記されている。同58条では、議員の除名は出席議員の2/3以上の多数決で決まると。

以下、簡潔のために、審査請求人等(国民)、審理関係人、審査関係人は、それぞれ、(   )内を意味する。

審査請求人等(国民) (審査請求人又は利害関係を有する参加人)
審理関係人      (審査請求人等+処分庁等)
審査関係人      (審査請求人+参加人+諮問の審査庁)

ここで、国民の権利利益、事後救済手続きを定めた行政不服審査法(以下、行審法と略す)上の行政不服申立ての流れを、簡潔に述べたい。
即ち、審査庁に属しながらも(行審法9条)、中立的な、審理手続きを主宰する審理員(本省大臣官房職員等)は、国民(審査請求人等)からの申し立てと、行政処分をした処分庁(地方支分部局の長等)の主張を公平に判断する。国民(審査請求人等)からの審査請求書と処分庁からの弁明書、さらに、審査請求人等からの反論書、証拠書類等を審理する。
書面審理が原則だが、審査請求人等の手続き保障の水準向上と審理充実のため、審理員には、申立人(審査請求人等に同じ)に原則、口頭意見陳述の機会の付与が義務化されている。すべての審理関係人が、原則、一堂に会しての、この口頭意見陳述に際し、申立人は、審理員の許可を得て、処分庁又は不作為庁に対し、質問を発することが出来る。
なお、原則、審理員の定める期間内に、審査請求人等は、証拠書類又は証拠物を、処分庁等は、当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件を提出できる。更には、審査請求人等は、提出された書類等の閲覧、写し等の書面の交付を求めることが出来る。(行審法32、38条)
・審査請求人等に提出書類等の閲覧・写しの交付請求権が認められるのは、審理員に出された処分庁の書類や、審理員が判断の基礎とする審理関係人以外の者からも出された当該物件を知ることにある。審査請求人等が、審理手続の場で、適切な主張立証を行えるための手続保障の一環である。
・審議が終了したら、中立的な審理員(審査庁の補助機関)の意見書等を審査庁(大臣等)に提出する。これを受けた審査庁は、独立的な諮問機関の行政不服審査会(地方公共団体では、別の機関)等に関係書類等を送り諮問し、その答申を受けて、審査庁は、裁決する。裁決(裁決書)、は、法的拘束力を有し、関係行政庁を拘束する。
前記の審理員制度、第三者機関の行政不服審査会等は、この改正により創設されたものである。
また、標準審理期間の設定や、争点・証拠の事前整理手続きが定められ、迅速
公正な審理が確保されている。
審査庁の有する裁決権限と、中立的な審理権限を有する審理員制度のもとで、
より公正な判断がなされることになったのである。
Ⅰ、行政不服審査法(行審法)の歴史
1訴願法
・大日本帝国憲法施行より、約1月早く、明治23年10月、訴願法が成立(山縣内閣)したが、これは、むしろ、行政の適正な運営の確保に重きを置いたもので、訴願を提起できる事項が列記されたものに限られるという列記主義であった。・・・営業免許の拒否又は取消に関する事件・・・等
・訴願の審理では、口頭意見陳述権が認められていなかった。訴願裁決庁の教示も無く、また、訴願しても、原処分よりも、訴願人に不利益な裁決となることもあり得たといわれる。が、大日本帝国憲法下、訴願や請願の装置が存在したことは卓見であった。
2全部改正法(一般法)
・行政不服審査請求(以下、審査請求と略す)は、簡易迅速かつ公正な手続きにより国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営の確保をする(行審法1条)ことにある。
 第一には、行政権の行使が法令に違反しているか否かの審査(違法性)である。更に、行政権の行使が違法と迄は、至っていないが、妥当性を欠くか否かの審査である。つまり、行政裁量が与えられている場合は、逸脱、濫用が無ければ、行政庁の判断が裁判所の判断よりも、優先する。裁判所は裁量判断の当、不当の問題については判断しない。司法審査の限界ともいえる。即ち、行審法上の行政不服審査は、行政過程の審査であり、行政裁量権の行使の妥当性・不当性の審査まで、可能なのである。行政の自己監督作用の面も有する。ここに、行政不服審査の特色があるとされる。
日本国憲法下、民主主義の成熟期を思わせる大改正であったといえる。
なお、不服申立ての裁決後でないと、出訴できない旨を定める96の法律の内
68法律で、不服申立前置が、廃止又は見直された。内47法律で、不服申立
て前置が全廃され、自由選択主義が採られた。

処分の取り消しの訴えと審査請求に関し、行政事件訴訟法8条では、不服申
立てと訴訟を私人が選択しうるとの自由選択主義となっている。
例外的に、個別法で、真に必要と思われる場合に限定して、不服申立て前置を定めるとした。
行政不服審査制度(簡易迅速かつ公正な手続きで手数料無料)を活用するか、訴訟(対審制で慎重な手続きだが、双方に負担)を活用するのかは、国民の自由選択に任されたのである。

Ⅱ、 行審法の構成 
                         
(1) 審査請求人(申請を行った国民で 有 審査請求適格)

1)行政庁に対し、処分について、申請を行い、不服があり、処分を争う法律上の利益を有する者に、審査請求適格がある。
つまり、国民の主観的権利利益を保護すべく審査請求が認められる。
・判例は、審査請求適格、即ち、行政上の不服申立て適格は取消訴訟(行政事件訴訟法第9条)における原告適格と一致するとの立場である。
2)法的拘束力がない行政指導や行政計画等のような、行政処分以外の行政作用に関することは、審査請求の対象にはならない。
3)全部改正で、手続保障の水準向上が図られ、新たな審査請求に原則的に一元化された。が、例外的に、再調査の請求、再審査請求が認められている。
4)審査請求は審査請求書を提出するのが原則となっている。他に法律、条例で定めがあれば、口頭でも審査請求書の必要的記載事項を陳述すれば可能である。
・審査請求人には、氏名、住所等、処分内容、処分を知った年月日、審査請求の趣旨及び理由、教示の有無・内容、請求の年月日等の記載が審査請求書に求められる。不作為についての審査請求書にもほぼ同様の記載が求められる。
審査請求人が、誰かは、審理員の除斥事由の判断にも資する。特に、審査請求に係る処分(再調査の請求の決定)があったことを知った年月日の記載は大切である(審査請求期間の起算日の特定に必要)。
5)審査請求人は裁決があるまでは、いつでも審査請求の取り下げができる。
このことは、訴訟(民事訴訟法261条=判決が確定するまで取り下げ可、 刑
事訴訟法257条=公訴は第一審の判決あるまで取り下げ可)とほぼ同様であ
る。
6)審査請求人等には、審理手続きの場の終結まで、他の審理関係人からの提
出情報を知り、適切な主張・立証を行うための、提出書類等の閲覧・写しの請
求権が認められている。なお、交付を受けるには、実費の範囲で要 手数料。
政令で免除可。(行審法38条4)行政不服審査会での場合も、同様の定
めがある。
7)審査請求人等は、その主張を根拠づける証拠書類又は証拠物の機会を確保
するために、それらを提出しうる。処分庁等は、当該処分の理由となる事実を
証する書類その他の物件を提出しうることは、前述したが、
民事訴訟における証拠調べと対比すると、証拠書類は、第四章、第五節の書証
の申し出に、証拠物は第六節 検証の対象になる。
ついでながら、民事訴訟は、当事者が、自ら主張するところの、法律効果の
発生、変更、消滅又はそれらの阻止を根拠づける要件事実の主張から始まる。
個々の要件事実に対応の具体的事実が、主要事実で、当事者は、主要事実の主
張責任・証明責任を負うこととなる。
8)審理関係人の主張の趣旨が明確さを欠いていたり、争点の把握が容易でな
い場合にも対処できるように、審理員は、審査請求人若しくは参加人の申し立
てにより又は職権で、審査請求に係る事件に関し、審理関係人に質問できる。
(行審法36条)

(2)審査請求期間等

1)処分についての審査請求は、原則、処分があったことを知った日の翌日か
ら起算して、3月を経過した時は、することが出来ない。(行審法18条)
2)再調査の請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して、3月
を経過した時は、することが出来ない。
3)再審査請求は、元裁決があったことを知った日の翌日から起算して、1月
を経過した時はすることができない。(行審法62条)
以上は主観的請求期間である。
4)処分についての審査請求は、処分(当該処分の再調査の請求をした時は
、当該再調査の請求についての決定)があった日の翌日から起算して、1年を
経過すると、請求はできなくなる。
・再審査請求は、元裁決があった日の翌日から起算して、1年を経過した時はできない。
以上の客観的請求期間は1年である。
5)行政事件訴訟法14条では、出訴期間を、初日不算入の原則を前提として、「処分又は裁決があったことを知った日から六箇月」と定める。    
審査請求前置主義がとられている場合には、6月(取消訴訟の出訴期間)は経過せずとも、審査請求期間の3月を経過すれば、原則、審査請求は不可となり、訴訟提起の機会をも失うことになるので、要注意とされる。
6)再調査の請求をした時は、原則、当該再調査の請求についての決定を経た後でなければ審査請求は不可である。再調査の請求をしたが、その決定を経ずに、審査請求が認められる場合、実際に審査請求がされたときは、再調査の請求は当然に取り下げたものとみなされる。
・なお、主観、客観共に、請求期間の上記の例外として、「正当な理由」が、挙
げられている。
・日、週、月又は年により、期間を定めた場合は、その期間の初日は算入しな
い。但し、午前0時から始まる時は初日も算入する。(民法140条) 
 
7)3月後の教示
・処分庁は、再調査の請求がされた日(当該不備が補正された日)の翌日から
起算して、3月を経過しても、当該再調査の請求が係属している時は、遅滞
なく、当該処分について直ちに審査請求が出来る旨を書面でその再調査の請
求人に教示すべきである。(行審法57条)

(3)審査請求の行政庁

1)審査請求書は、審査庁となるべき行政庁に提出する。
2)処分庁または、不作為庁に、指揮監督権を持つ立場の、上級行政庁がない時は、当該 処分庁(又は、不作為庁)に審査請求する。
3)主任の大臣が、処分庁(又は、不作為庁)の上級行政庁であるならば、当該主任の大臣に審査請求をするのが原則である。
4)主任の大臣や宮内庁長官は、独立性の高い地位にあり、広範な権限を有するので、上級行政庁が無い場合と同様に扱い、大臣、長官が処分庁(又は不作為庁)なら、当該主任の大臣や宮内庁長官に審査請求をする。
5)庁の長官も独立性の高い地位にあり、広範な権限を有するので、上級行政庁が無い場合と同様に扱い、庁の長官が処分庁(又は不作為庁)なら、当該庁の長官に審査請求をする。
6)各庁の長官が、処分庁(又は不作為庁)の上級行政庁ならば、各庁の長官に、審査請求をする。各庁の長官には、上級行政庁がないものとして、取り扱われる。
7)審査庁となるべき行政庁には、事前に審理員候補者名簿の作成努力義務があり、作成後は名簿を公にしておく義務がある。

(4)審理員(処分に無関係の者を指名)

・審査庁に所属する審理員(行審法9条)は、審査請求書又は審査請求録取書の写しを処分庁等に送付し、弁明書の提出を求め、弁明書の提出があった時は、逆に、これを審査請求人及び参加人に送付の義務がある。さらに、審理員は審査請求人から反論書の提出があった時は、これを参加人及び処分庁等に送付の義務がある。参加人から意見書の提出があった時は、これを審査請求人及び処分庁等にそれぞれ送付の義務がある。
1)審理手続きを主宰
審理員は、審理員候補者名簿の中から、原処分に関与していない者を選び、指名(複数可)される。審理手続の公正を確保するため中立的立場に立つが、審査庁に所属する補助的機関であり、その訓令通達(行政庁所管の諸機関及び職員に発する命令又は示達)には原則拘束される。
審理員は、審理手続きを計画的に主宰する。
必要なら、争点・証拠の事前整理のためにも、期日及び場所を指定し、審理関係人を招集し、事前に、申立てに関する意見の聴取が出来る。(遠隔の場合、音声の送受信での通話による意見聴取可)(行審法37条)。
2)弁明書の要求と通知連絡
審理員は、審査庁の指名を受けたら、直ちに審査請求書又は審査請求録取署の写しを処分庁または不作為庁に送付、相当の期間を定め、審査請求人に対する弁明を書面(弁明書)での提出を求める。
・審理員は、審理手続きの透明性の観点から、これらの弁明書を審査請求人等に送付、通知する。なお、参加人も審査請求に係る事件に関する意見書を提出できる。
3)口頭意見陳述の機会付与義務
行審法は、書面主義が原則だが、審査請求人等の申し立てがあれば、審理員は申立人(審査請求人+参加人)へ口頭で、審査請求に係る事件に関する意見を述べる機会を付与すべきものとしている。もっとも、申立人の陳述が、事件に関係が無い事項にわたる場合等には制限することが出来る。
4)補佐人との出頭、質問許可
申立人が補佐人と共に出頭するには、審理員の許可が必要である。
・申立人は、審査請求に係る事件に関して、処分庁または不作為庁に対して、審理員の許可を得て、質問することが出来る。(行審法31条)
5)執行停止の意見書の提出
審理員が執行停止の必要性を認識したら、審査庁にその執行停止をすべき旨の意見書を提出しうる。
6)審理手続の終結
・審理手続の終結は、審理員が、必要な審理を終えたと認める時である。
・又、審理関係人は、審理において、簡易迅速かつ公正な審理手続の実現のため、相互協力し、計画的な進行を図る義務を負っている。(行審法28条)
故に、審理関係人が、主張、立証の機会を付与されたのに、これを活かさなかったときは、審理員の裁量で、審理を終結しうる。即ち、相当の期間内に、弁明書、反論書等が未提出、証拠書類等の未提出、申立人が、正当な理由なく、口頭意見陳述に出頭しないときである。(行審法41条)
これには、民事訴訟法157条で、時機に遅れて提出した攻撃又は防御方法が、訴訟の完結を遅延させるとなると、裁判所が、却下の決定をしうること等の規定が参考にされたものといわれる。

7)審理員の指名不要等
・内閣府の外局たる委員会等や、普通地方公共団体の執行機関たる付属機関での審議会等が、審査庁の場合である。即ち、公正中立を担保しうる有識者で構成されていると目されるので、審理員制度の手続き保障は意義が薄く、整備法において、審理員の指名は不要とされた。
{(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律=整備法と略す)、内閣府設置法、地方自治法等}
・処分庁以外の行政庁に対し、審査請求が出来る場合に、法律の定めで、例外的に処分庁に再調査の不服申立てが認められることがあるが、これは、簡易迅速に処分庁自身が、処分を見直すものなので、審査請求と異なり、審理員による審理手続きの保障はされていない。

(5)審査庁(原則、上級行政庁)

1)審査請求書が、規定に違反していれば、審査庁は、相当の期間を定め、不備を補正すべきことを命じる。(行審法23条)
なお、審査庁には旧法以来、行政救済を重視して、審査請求人への不利益変更禁止の原則がある。
2)審理員による審理の結果を審査庁は十分に参酌する。
・審理員は、審理手続きを終結したら、遅滞なく審査庁が、すべき裁決に関する意見書(審理員意見書:事案の概要、審理関係人の主張、事件の争点等)を作成して、速やかに、これを、事件記録(審査請求書、弁明書、反論書、口頭意見陳述調書等)と共に、審査庁に提出する。
3)審査庁は、審理員による審理が行われ、審理員意見書の提出を受けたら、原則として、行政不服審査会等に諮問する。
審査庁の訓令通達にも拘束されない中立的な第三者機関の判断を受ける機会を審査請求人に保障し、手続きの公正性を確保するためである。
4)裁決(決定)
・行政不服審査会等から答申を受けたら、審査庁で、遅滞なく裁決がなされる。
・審理員による審理、行政不服審査会等への諮問を経ての最終判断が裁決であり、裁決書には、主文、事案の概要、審理関係人の主張の要旨、理由が記載され、審査庁が記名押印する。
裁決は原則、審査請求人に裁決書の謄本が、送達されたときに効力を生じる。裁決には、関係行政庁に対する拘束力が認められる。
裁決書の謄本を送付できないときは、公示の方法で行われる。
・審査請求では審理員、行政不服審査会等の制度を活用した最終判断を裁決と呼んでいる。再調査の請求は、その請求人と処分庁が直接対峙し、処分庁は自ら再調査を行い、その最終判断は決定と呼ばれる。決定には裁決の場合の拘束力は認められていない。
5)再審査請求の教示
審査庁は、再審査請求が出来る裁決時には、裁決書に再審査請求が出来る旨、その再審査請求すべき行政庁、再審査請求期間を記載し、これらを教示する義務がある。(行審法62条)
6)執行不停止原則
審査請求により、直ちに処分の効力、執行、又は、手続きの続行は停止されない。このことは、明治23年制定の訴願法に定められて以来、維持されており、行政運営に支障をきたさないことや、審査請求の濫用防止のためともいわれる。
なお、裁決権限を有する審査庁は必要があれば、執行を停止(暫定的に)することが出来る。
・処分、処分の執行、又は手続きの続行により、生じる重大な損害を避けるため、緊急性を認める時は、審査庁は執行を停止する。義務的執行停止である。

*裁決(決定)の種類*
7)却下
①(不備の補正無)
・審査庁は、審査請求で、審査請求書の必要的記載事項に不備があり、相当期間内に補正すべく命じても、不備が補正されなければ、審査庁は、審理員による審理手続きを経ることなく、裁決で、当該 審査請求を却下しうる。
②(不適法)
・処分についての審査請求が、請求期間を徒過し、その他、不適法な場合は、審査庁の裁決で、当該審査請求は却下される。
③ (再調査の請求が不適法)
・再調査の請求が、法定期間経過後、その他不適法の場合、処分庁は、決定で、当該再調査の請求を却下する。・
④(不作為についての審査請求の裁決)
・不作為についての審査請求が当該不作為に係る処分についての申請から、相当の期間経過前にされたものである場合、その他、不適法な場合は、審査庁の裁決で、当該審査請求は却下される。(行審法49条)

8)棄却
①(理由無)
・審査請求は適法なるも、審査請求に係る処分が、違法又は不当のいずれでもなく、審査請求が、理由が無い場合には、審査庁は、裁決で当該審査請求を棄却する。(行審法45条2)
②(再調査の請求に理由無)
・再調査の請求が、理由が無い場合には、処分庁は、決定で、当該再調査の請求を棄却する。
③(不作為の理由無)
・不作為についての、審査請求が、理由が無い場合には、審査庁は、裁決で当該審査請求を棄却する
 ④ 特別の事情による棄却
・審査請求に係る処分が、違法又は不当ではあるが、一切の事情を考慮すると、処分を取り消し又は撤廃することが、公共の福祉に適合しないと認める時は、審査庁は審査請求を棄却する裁決を行うことが出来る。この場合、審査庁は裁決の主文で当該処分が違法又は不当であることを宣言する。(行審法45条3)
なお、行政事件訴訟法第三十一条の取消訴訟でも、同様な定めがある。
一切の事情を考慮することから、事情裁決・事情判決ともいわれる。
公益擁護が、行政の原理や裁判を受ける権利を犠牲にするということにもなり、濫用は禁止される。
9){処分・事実行為・不作為}に対する審査請求の認容
・審査請求では、職権探知(審査庁自ら証拠収集)も認められ、審査請求人による主張が不十分でも、職権探知の結果、処分が違法又は不当であると認められると、審査請求が認容される。
① 処分につき、審査請求に理由がある時の裁決
処分につき、審査請求に理由がある時は、審査庁は、裁決で、
当該処分の全部もしくは一部を取り消し、または、これを変更する。但し、審査庁が、処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもないときは、当該処分を変更することはできない。(行審法46条)

②  事実上の行為についての審査請求の裁決
・事実上の行為で、審査請求に理由がある場合には、審査庁は、裁決で、当該事実上の行為が、違法又は不当である旨を宣言すると、ともに、審査庁の区分に応じた措置をとる。
即ち、審査庁(処分庁以外の)は、当該処分庁に対し、事実上の行為の全部もしくは一部を撤廃し、または、変更すべき旨を命じる。
・処分庁である審査庁は、当該 事実上の行為の全部もしくは一部を撤廃し、または、これを変更する。
なお、審査庁が、処分庁の上級行政庁以外の審査庁の場合は当該事実
上の行為を変更すべき旨を命じることは不可。(行審法47条)
③ 不作為についての審査請求の裁決
不作為についての審査請求が、理由がある場合には、審査庁は裁決で、当該不作為が、違法又は不当である旨を宣言するとともに
審査庁は、当該申請に対し、一定の処分をすべきと認める時は、各号に定める措置をとる。(行審法49条3)

10)(再調査の請求に対する理由がある、決定)

①処分の再調査の請求が理由がある時は、処分庁は、決定で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又は変更する。(行審法59条1)
②(事実上の行為で、再調査の請求に理由がある、決定)
・事実上の行為についての再調査の請求が、理由がある場合には、処分庁は決定で、当該事実上の行為が、違法又は不当である旨を宣言するとともに、当該事実上の行為の全部もしくは一部を撤廃し、または、これを変更する。(行審法59条2)

(6)再審査庁(再審査請求がされた行政庁)

1)却下
再審査請求が、請求期間を徒過し、その他、不適法な場合は、再審査庁の裁決で、当該再審査請求は却下される。
2)棄却 
・再審査請求が、理由が無い場合には、再審査庁は、裁決で当該再審査請求を棄却する。
3)特別の事情による棄却
・再審査請求に係る原裁決等が、違法又は不当ではあるが、一切の事情を考慮すると、原裁決等を取り消し又は撤廃することが、公共の福祉に適合しないと認める時は、再審査庁は裁決で、当該再審査請求を棄却することが出来る。この場合、再審査庁は裁決の主文で、当該裁決等が違法又は不当であることを宣言。(行審法64条4)事情裁決ともいわれるものである。

4)再審査請求の認容の裁決
・原裁決等につき、再審査請求に理由がある時は、再審査庁は、裁決で、当該原裁決等の全部又は一部を取り消す。
5)事実上の行為の再審査請求に理由
事実上の行為についての再審査請求が理由がある場合に、裁決で、当該事実上の行為が、違法又は不当の旨を、裁決で宣言するとともに
処分庁に対し、当該事実上の行為の全部又は一部を撤廃すべき旨を命じる。(行審法65条2)
6)不作為についての再審査請求の不要性
再審査請求に関し、不作為についての審査請求に対する裁決後を対象にしていないのは、あらためて、不作為については審査請求が可能のゆえである。違法または不当の判断の基準時が、審理手続き終結時、棄却裁決が出された後も不作為の状態が継続ならば、改めて不作為の審査請求が可能なので、再審査請求の必要性が無いのである。逆に、不作為を違法又は不当との裁決であれば、審査請求人は満足であり再審で争う利益はないことになる。

(7)行政不服審査会(総務省内に設置・総務大臣任命の9委員)

1)書面での審理が原則
行政不服審査会の調査審議は、審査庁から提出された諮問書に添付の資料(審理員意見書+審査請求書、弁明書等の事件記録)に基づき書面での審理が原則である。
2)中立的な第三者機関は、国の場合はこの行政不服審査会であり、地方公共団体では、各地方公共団体が条例で定める機関であり、共同設置の場合は規約に定められる。
3)3人の委員での合議体の審議
委員9人で組織され、3年の任期(再任可)で、3人の委員での合議体で審議される。(3人×3部会で、3人以内は常勤可)
4)両議院の同意と総務大臣の任命
委員はこのことに関し公正な判断ができ、かつ法律又は行政に関して優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て総務大臣が任命する。解散等で、同意を得られなかった場合には、任命後、最初の国会で両議院の事後の承認を受ける必要がある。承認が得られなかったときは、総務大臣は、直ちにその委員を罷免する。(行審法69条)

5)国会による民主的統制の重視
国会同意の人事なのは、任命権者の総務大臣に対しても、高度な独立性、中立性を確保するため、国会による民主的統制が重視されたからとされる。
6)守秘義務
行政不服審査委員には、退職後も含めた守秘義務がある。また、積極的な政治運動は禁止。利益目的の就業も原則禁止(罰則あり)
7)専門委員
専門委員(専門の事項調査を行う補助的職員)
学識経験者から総務大臣が任命する
8)事務局
行政不服審査会の事務局(審査庁等からの独立性確保)
調査審議の補佐、資料収集、審査関係人との連絡調整等
9)「答申の内容」を公表
行政不服審査会は、諮問への答申をした時は、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、個人情報保護等に十分に配慮のうえ「答申の内容」を公表する。
10)口頭意見陳述
行政不服審査会では、審査関係人から、申し立てがあれば、当該審査関係人に、口頭で意見を述べる機会が付与されている。
審査請求人等は、行政不服審査会の許可を得て、補佐人と共に、出頭しうる。(行審法75条)
・審査関係人は、行政不服審査会に対し、その主張書面又は資料を原則、期間内に提出する必要がある。(行審法第76条)
・審査関係人は、行政不服審査会に対し、第3者の利益を害しない限り、原則、提出された主張書面若しくは、資料の閲覧、写し等の書面の交付を求めうる。(行審法78条)
11)適用除外
・慎重な手続きや、特別な機関の特別な手続きで行われる処分等で、行政不服審査法による審査請求を認めることが、適当でなく、又、審査請求を認めても結果が変わる可能性が低く、除外されるものが、行審法第7条に列記されている。国会や裁判所等でなされる処分等である。
12)実施のための政令
*行政不服審査法は、原則、公布の日(平成26年6月13日)から起算して、2年を超えない範囲内で、政令で定める日から施行される。  

Ⅲ、 行政手続法とその一部を改正(平成27年4月1日施行)する法律
 平成5年11月法律第88号、同26年6月13日 最終改正
*行政不服審査法の改正に併せた整備

・行政不服審査法改正の検討過程で、議論された事項の中に、行政手続法で取り上げた方が良いと判断されたものが存在したので、同時改正が行われた。
行政手続法は、申請者の求めに応じ、申請書等に必要な情報の提供の努力義務を行政庁に課しているが、行審法にも、審査請求等につき、同様の定めがある。また、行審法は、不服申立ての処理状況を公表する努力義務を定めている。

・行政手続法では、行政指導に携わる者は、行政機関の許認可等の権限行使の根拠法令条項、規定の要件等、理由を、書面又は口頭で相手方に示すことで、権限濫用型行政指導の抑止を図っている。
*違法な行政指導の中止等を求める制度
行政指導の中止等の求めは、行政手続法の行政指導に関する規定に、また、法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、当該行政指導が、当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることが出来る。口頭では不可。要 申出書の提出。(行政手続法第36条の2)
*一定の処分又は行政指導を求める制度 
・何人も、法令に違反する事実があると思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁等に対し、その旨の申出書の提出により、当該処分又は行政指導をすることを求めることが出来る。(職権発動の端緒)(行政手続法第36条の3)
・当該行政庁又は行政機関は、規定による申し出(口頭では不可。要 申出書の提出)があった時は、必要な調査を行い、その結果に基づき必要があると認める時は、当該処分又は行政指導をする義務がある。
なお、行政手続法が定める行政指導の規定は、地方公共団体の機関の行政指導には適用されないが、同法の規定の趣旨にのっとり、行政手続条例改正の検討に着手すべきとされる。
**行政指導の一般原則として、当該行政機関は、その任務等の範囲を逸脱しないこと、及び、行政指導の内容が相手方の任意の協力によってのみ実現されることに留意し、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由に不利益な取り扱いをしてはならない旨、定める。(行政手続法第32条)
また、ほぼ、行審法同様に適用除外が定められている。(行政手続法第3条)

Ⅳ、 行政書士法

本法は、官公署に提出する書類、権利義務、事実証明に関する法律書類、実地調査に基づく図面類の作成が、その業務であった。後に、これらに関する各役所への提出の代行、書類作成に係る相談業務について、法文化された。(昭和55年4月)
そして、平成元年には、入国管理法令上の申請取次行政書士制度(法務大臣承認)が、導入された。
さらには、官公署への代理提出権や契約等に関する書類を代理人として作成することで、行政手続きの円滑化と併せて、契約代理等を通して、国民の利便に資することの改正(H13年)が行われた。行政手続オンライン化関係三法も14年に成立、H15年になると、行政書士法人化制度が認められた。平成20年には、事前的救済として、行政手続法に関し、不利益処分を受ける前に、聴聞又は、弁明の機会の付与、意見陳述に関し官公署にする行為の代理(争訟前の救済法)が、明記された。さらに、この平成26年6月27日公布(平成26年12月27日施行)された新 行政書士法には、官公署(各役所)への行政書士申請の、許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等と、行政庁に対する国民の不服申立ての手続きの代理が明記された。
この改正は、事後的救済への争訟の提起である。
本改正前は、国民の依頼を受け、行政書士が、作成した申請書は、補正や、再申請は別として、不許可等の処分を受けても、それを行政書士自らが解決してあげられないという不自然な状態にあった。
併せて、国民生活への貢献を目指して、新行政書士法下、日本行政書士会連合会が、その会則で定める研修の課程を修了した特定行政書士の責務は、これ又、大きいと言わなければならない。
初めから、議員立法の形式で、改正されてきており、これは、なみなみならぬ国会議員の先生方の御努力・御理解によるものであった。(なお、行審法は内閣提出法案であった)。ここに改めて感謝申し上げたい。
明治5年の太政官布告から140年以上の月日が流れていた。
日本行政書士会連合会及び日本行政書士政治連盟の熱意に負うところ大であった。
併せて(自著を除き)、参考文献等の機関・著書・著者名等を掲げ、ここに、感謝の意を表し結びとします。
         (神奈川県行政書士会会員)
日本行政書士会連合会中央研修所行政法特別研修修了                   
         
参考文献等
行政不服審査法 関連三法について      総務省     MIC                          
行政不服審査法(平成26年法律第68号)
行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第69号)
行政手続法の一部を改正する法律(平成26年法律第70号)
H26年6月      総務省 行政管理局                    
・第10回実務家支援セミナー   主催:新日本法規出版株式会社
「行政不服審査関連3法の内容と今後の課題」 東京大学  宇賀 克也
1 総論   2 審査請求( 行政書士法1条の3含む) 3 審理員制度 
4 再調査の請求・・・・・・9 行政手続法の改正
東京大学法学部教授・公共政策大学院教授を兼担

同上セミナー図書「 Q&A 新しい行政不服審査法の解説 
著 宇賀 克也(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 新日本法規」 刊

・月刊 日本行政 2006,11,NO,408 

・論考 行政書士  The field of  Gyoseishoshi Lawyers 宮原賢一
 全国運輸関係行政書士Web 懇談会 発行

・政治主導と友愛の国(高木太、元就出版社)、同参考図書・文献等(P222~223)に同じ

行政書士は、明治維新となった、明治5年8月に発布された「司法職務定制」に源流を見ることができます。証書人、代書人、代言人職制が定められたのです。公証人、司法・行政書士、弁護士の原型がこの時出来たのでした。内務省の廃止後、昭和26年2月、行政書士法として制定され、今日総務省の所管に至っております。議員立法により幾多の変遷を経たものです。なお、江戸時代には幕府の法基準としての公事方御定書(1742年、秘法扱)の制定がありました。代書や訴訟のお手伝いもする公認の公事宿や、公事師(非公認)が、後の代書人、代言人へと深化、発展したものと思われます。

元就出版社(電話03-3986-7736) (FAX03-3987-2580)より

「政治主導と友愛の国」を出版

 

予告なく、変更することがあります。

 

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