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判例5-再転相続人の相続放棄など

 

再転相続人の相続放棄(最判昭和63年6月21日)

民法第916条の規定は、甲の相続につき、その法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合には、乙の法定相続人である丙のために、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、このような丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、格別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。
そうであれば、丙が乙の相続を放棄して、もはや乙の権利義務をなんら承継しなくなった場合には、丙は、この放棄によって乙が有していた甲の相続についての承認又は放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはや甲の相続につき承認又は放棄をすることはできない。
丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによっては乙の相続につき承認又は放棄をするのに何ら障害にならず、また、その後に丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはない。

 

 

遺言執行者の登記手続き(最判平成11年12月16日)

特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言は、即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得ざることは、民法第1012条第1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。
もっとも、登記実務上、相続させる遺言については、甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない。
しかし、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、妨害を排除するため、所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。
この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の職務権限に影響を及ぼすものではない。

 

 

遺言執行者がいる場合の遺産処分(最判昭和62年4月23日)

遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には、目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから、受遺者は、遺言執行者かある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができるものと解するのが相当である。
民法第1013条が規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、このような法の趣旨からすると、相続人が、民法第1013条の規定に違反して第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人のこの処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして第三者に対抗することができるものと解するのが相当である。
そして同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解する。

 

 

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